2024.10.21
2024年新作「銀河の夢」「銀河の扉」「四天王」のご紹介
カテゴリー:作品・グッズ
2024年の新作は6点。今年の11月、12月に開催する《大阪》と《東京》の新作展にてお披露目となります。皆様により陶彩画展をお楽しみいただけるよう、作家が作品を通して伝えたい想いや作品の見どころをご紹介いたします。
《新作 銀河シリーズ》
各作品 絵寸:1080×800㎜
理想とする色を導きだすため、作家は何度も試作を重ねます。
その試作の際には、 様々な釉薬(絵具)の調合を試すため、テストピース(小さな陶板)に絵付けをして試し焼きをします。

銀河シリーズの2作品の魅力は何と言っても、美麗に輝く羽や焼き物ならではの深い青色です。背景作りには、ただ絵付けや焼成を繰り返すだけでなく、あえて下の色を削り出したり、釉薬を水に浮かせ偶発性に委ねるようにして銀河の不思議な揺らめきを表現したりと、新しい技法を試した工夫が重ねられています。そして、陶彩画の真骨頂とも言われる色の変化を今回の龍と鳳凰にも用いており、更には下地の暗色を利用してやや抑えた色調にするなど、神秘性を増す仕上がりとなりました。

2024年、新作の一つは銀河をテーマにしています。
昨年の春、解剖学者で「バカの壁」の著者である養老孟司先生にお会いしました。昆虫採集と標本づくり(昆虫学者)でも世界的に知られた方です。
「銀河シリーズ」は先生にお会いした時のお話が私の長年の想いと重なり、完成までのエネルギーを頂いた気がします。
私は常々、生物の形態や色などは「かくありたい」という願いがカタチになったのものではないかと考えていました。いのちの意志(=宇宙の意志)というようなものです。
どの生き物も美しい。機能的な美しさだったり、色の美しさだったり、フォルムの美しさだったり。虫で言えば、葉っぱそっくりに擬態する虫もいるし、ピンク色の蘭の花そっくりのカマキリもいて、そうでなくても私たちが普段何気なく見ているものも、その気で見てみると、みんなそれぞれに見事なばかりの美しさです。
そのことについて聞いてみました。それは、生命の「かくありたい」という思いの結実ではないでしょうか?
すると、先生の答えは、自然淘汰というものがあるだろうけれど、自然と呼応することでいのちがかたちになっていくのだろうというものでした。
私は「進化」というのは、大自然=宇宙のシグナルによる変容だと思っています。宇宙の意を受け取り、それを理解し、自然に呼応することで変容していくのです。「かくありたい」とは、その宇宙の意である「かくあれかし」という呼びかけへのこたえです。
人間も大自然のバイブレーションやシグナルを受け取っていますが、思考が発達したばかりに人為や人工を偏重し、ひとりよがりに進化しているのではないか、そんなことを思います。宇宙は、私たちを誕生させましたが、さて、私たちはいのちの源である宇宙の呼びかけにこたえているでしょうか・・・。
龍と鳳凰が翼を得て宇宙を飛翔する、なんとも自由な姿です。それは「かくありたい」という私が受け取ったイメージであるとともに、愛と平和(大自然、宇宙)のまんなかで、自由ないのちの象徴です。大阪・東京のお披露目をどうぞ、ご期待ください。
草場 一壽
《新作 四天王シリーズ》
“力で敵を退ける守護神”とされてきた「四天王」を、“そもそも敵がいないこと(友愛)こそが無敵である”という発想で女神として描いた「新 四天王」シリーズの『持国天』『広目天』『増長天』『多聞天』(総称:四天王)の4作品。力による支配ではなく、“調和”や“繋がり”を通じて新しい時代を築くことの重要性を伝える存在として制作されました。四体は、新時代の先駆者としての威厳と風格を漂わせており、作家はこの荘厳な姿を際立たせるため、特に背景色に特別なこだわりを持って世界観を創り上げています。

各作品 絵寸:729×532㎜
この新作は、約2年間の構想後、銀河シリーズ同様に何度も絵付けのテストを行っています。

四天王4作それぞれの細かな絵付けは勿論のこと、よく見ると複雑な濃淡が見て取れる背景に工夫があります。この絶妙な色合いは、パステル調の7色の釉薬を仕込み、その上から人物の輪郭の外側に紺色・紫・海老茶・濃紺と釉薬を重ね、色ごとに窯入れを行うことで、複雑で奥行のある色が作りだされています。


2年間の構想と試作(実験)がやっと形になってきました。
四天王が陶彩画の新しいモチーフです。
四天王とは、聖なる山である須弥山に四方にいて敵を退けるための守護神です。東を護る持国天を筆頭に、南方の増長天、西方の広目天、北方の多聞天のことです。
日本では、飛鳥時代からすでに四天王信仰がありました。聖徳太子が物部守屋との戦いで戦勝祈願したとされ、勝利の後、四天王寺を建立したことが日本書紀に記されています。眉を逆立て、唇を噛み、憤怒の形相で鋭い憤怒の形相をしているのが一般的ですが、仏像としては作例も多いことから、お寺ごとに様々な四天王に出会うことができます。解釈や作り手である仏師によっても、異なるのでしょう。
以前、合気道で世界的に知られる、廣澤英雄師に合気道の極意をお聞きする機会がありました。その時、師に教えられた極意を一言で言うなら「無敵」です。つまりは敵がいないこと。
お話を聞いてハッとしました。思えば日本の武道における目的(技)の第一は、敵を倒すことにはなく、自分を心身共に強くする、自らを律することです。決して相手をやっつけるものではないのです。矢を放たれたら「かわす」のが鉄則であり、それが武芸であって、武術の本質です。
四天王の姿にかえりますと、憤怒の形相は、敵に対して「力には力」の構図です。
心理的・精神的な部分においても「男性らしさ」や「女性らしさ」が価値観の主軸にある頃には、力や攻撃、支配、対立は男性的な側面とされて賞賛されていました。守護神は男性性となり、力を象徴する姿となります。
かたや女神のイメージは、融合や生成、愛情やつながりでしょう。それは調和と暖かさを象徴するものです。
いま、男性たちが力としての男らしさから自らを解放し、社会や家庭での役割を新たに組み直しています。生命という視座から世界を見直す必要に迫られている、そんな時代性が背景にあるでしょう。意味を生み出す社会というベースに大きな変化が生まれているので鑑賞いただく際はどんなタッチで描いているかなど、細かいところも注目してみていただくと面白いかもしれません。
こうした大きな進化の中で、どんな四天王を描くことができるか・・・。それが私の新しい挑戦でした。これまでにない、美しくも無敵の四天王をみなさまにお見せできたら嬉しく思います。
草場 一壽